王侯貴族の避暑地として発展したアランフェスの森の中でも、特に「王子の庭」と呼ばれる一角にあるスペイン国宝「農夫の家」は、その名前から質素な田舎の家を想像しがちですが、一歩踏み込むとよい意味で意表をつかれ、驚くことになります。
ここは、19世紀の始め、カルロス4世が狩猟やビリヤード、親しき諸侯たちとパーティーを楽しむために作られたプライベート・スペースなのです。
1790年に着工し1803年に竣工した新古典様式のこの館は、絹や大理石、銅や高級木材をふんだんに使用し、豪華絢爛な内装や調度品に贅を極めた「遊びを楽しむための別荘」です。
パリのオペラ座も手がけたフランス人の建築家、ジャン=デモステヌ・ドゥグールによるインテリアだからこそ、フランスやイタリアの香り高い内装に。
細かく見ていきましょう。
スペイン人画家マリアーノ・サルバドール・マエジャの手によるフレスコ画か描かれた丸天井を持つ、オリエンタルムード溢れる壁の装飾が美しい黄金のビリヤード・ルーム。
メリダの古代ローマ遺跡から運び込んだモザイクまで填め込んだ床。
カルロス4世がマドリードに造った離宮「ブエン・レティーロ」から運ばれたシャンデリア、タイル、時計、ブロンズ像、磁器……。
ヨーロッパで最も重要な新古典様式の館と言われる所以です。
歴史を紐解くと、この「農夫の家」を造ったカルロス4世は、失態を繰り返した国王でした。
1805年の英国海軍と戦ったトラファルガーの海戦で、全艦隊を失ったり。
私欲に満ちた宰相ゴドイに国政を任せた結果、1807年、ナポレオン軍に「イベリア半島の占領させるから引き換えに首相とならせろ」と交わしたゴドイの密約がバレたり。
このゴドイ、アランフェスにいたんですよ!
1808年3月17日、無能な王カルロス4世と王妃マリア・ルイサ、及び、アランフェス王宮に身を隠すゴドイに対して、怒り狂ったアランフェスの民が暴動を起こし、国王とゴドイを失脚させるきっかけを作りました。
ゴドイの密約に対する民衆蜂起はマドリードにも伝わり、同年5月2日と3日、マドリードでも大規模な蜂起が起きました。
このときに命を落とした人々は、ブラド美術館隣のリッツホテル前のロータリーの中、レアルター公園の英雄記念に祀られています。
ゴヤは、「スペイン独立戦争、5月2日」と、「同、5月3日」の絵を残しました。
戦乱の様子を描いた絵と、手を上げた1人の民衆がナポレオン軍の兵士たちに撃たれる寸前の絵は、プラド美術館に展示されています。
民衆たちの命がけの蜂起のおかげで、イベリア半島はナポレオンの手に落ちずにすみました。
スペインを救った民衆の勇気を記念して、今でも毎年夏にアランフェスでは、民衆蜂起の仮装をし、たいまつを持って街を練り歩く祭り「エル・モティン・デ・アランフェス」が続けられています。
ちなみに、同じ敷地内には、貴族がタホ川の川遊びを楽しんだ小舟を展示している「王家の小舟博物館」もあります。
王宮から歩くと20分はかかりますが、王宮の入り口付近から出る「チキトレン」が、農夫の家まで連れて行ってくれます。
テーマパーク気分で、豊かな森の緑が気持ちよいドライブを楽しみましょう!
Casa del Labrador de Aranjuez 農夫の家(アランフェス)
カルロス4世のプライベートスペースに驚嘆!
- 投稿日2014/09/30
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ジャンルその他建造物
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エリアその他/近郊
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住所
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アクセス王宮からタクシーで5分。徒歩20分。
王宮前広場のチキトレンでも行ける。料金5ユーロ。 -
電話番号+34-91-8910305
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営業時間[4月-9月]10:00-18:15
[10月-3月]10:00-17:15
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