バターや砂糖の使用を最小限にした軽やかなフレンチ。ビジュアルは美しいアヴァンギャルドで、素材の存在感を大切にするスペシャアリテの数々が素晴らしくミシュラン2つ星も納得できる。六本木3丁目の超高層オフィスビル1階ホールにエントランスのあるテナントレストランでありながら、高い独立性を感じる閉鎖的なアプローチが、そうは思えぬ素適な雰囲気を醸し出している。

水の料理で有名なフランスの3つ星レストランで8年間修業したシェフの料理は、まさに軽やかな味わいで潔いほど。今回も蛍烏賊や竹炭、牡蠣、岩海苔、的鯛など、日本料理かと思わせるような旬の素材を徹底して使い、モダンフレンチらしいエレガントなビジュアルに仕上げている。香りや食感に拘り、バターや砂糖をほとんど使わない軽い味付けが、かえって素材そのものの味わいを前面に押し出している。

スペシャリテであるカダイフを纏った軽やかなフリットが素晴らしい。今回の的鯛も文句の付けようがない柔らかく均一な火入れ。細いカダイフはフリットにして、通常の揚げ物の十分の一しか油を吸わないヘルシー仕様。ブロッコリーのソースとブロッコリーの芽に挟まれた的鯛がレモンのジュレと絡み合い、的鯛の白身らしい旨みを最大限に引き出している。

牡蠣の冷製もスペシャリテ。今回は広島産のプリプリの牡蠣が海水と柑橘のジュレの海に浸っている。岩海苔と牡蠣のムースと、牡蠣そのもの、海水ジュレが三位一体となって口の中で溶け合っていき、牡蠣、海苔、牡蠣、海苔と交互に海の味わいが舌の上に現れては消えてゆく。

カカオウォーター、カカオガナッシュ、カカオシャーベットのカカオトリオのデセールもスペシャリテ。カカオシャーベットが粉末となって皿に広がる様は、まさにアヴァンギャルド。最後までシェフらしさを楽しめる。

早々に散った桜に後髪惹かれる思いを慰めるように、シャンパーニュはロゼを勧められた。春の名残りの料理とワイン。サービスの演出も素晴らしい。ソムリエ、支配人、シェフが交互に現れ、料理への熱い思いを語る。これからのフレンチはヘルシーでなければならない。美味しいものが身体に悪い時代は終わった。これからは美味しく、楽しく、いっぱい食べて、なおかつ身体に良い食事でなければと。

的鯛に合うワインを聞くと、シャンボールミュジニーを勧められた。泡でも白でもなく、敢えての赤ワイン。シャンパーニュ1杯に含まれる糖質は3．0グラム。白ワインなら1．2グラム、赤ワインは0．8グラム。赤ワインで合わせられる料理なら、できるだけ赤ワインを合わせることが健康的なフレンチの鉄則とも言われる。

場所は東京メトロ南北線、六本木1丁目駅至近。泉ガーデンの向かい側、六本木通りとのT字路にできた超高層オフィスビル、その名もまさにティーキューブ。日比谷線六本木駅、六本木交差点からも溜池交差点に向かい、六本木通りを下って数分の距離。オフィスのエントランスホールに入って右手、他の店舗からは離れた位置に独立性を重視した印象のアプローチが在る。

インテリアは白と黒のモノトーンをモダンかつ落ち着いた雰囲気にまとめている。メインダイニングは決して広々としてはいないが、コンパクトに配置され居心地は良い。

水の料理のレストランで修行し、ヘルシーで軽快な味わいを実現、美しいビジュアルとアヴァンギャルドなコンセプトで女性客を魅了するシェフ。ジョエル・ロブションも、これからのフレンチはヘルシーでなければならないと言っていた。新しい価値観が、この店を先鋭として日本でも動き出していることを感じる。

≪今回の料理≫
シャンパーニュと共に　生ハムとバジルペーストを挟んだ小さいサンドイッチ

Dejeuner B　4200円

アミューズブーシュ　蛍烏賊　竹炭のフリット
オードブル　広島県産牡蠣の冷製　海水と柑橘のジュレ　岩海苔風味
ポアソン　的鯛　カダイフを纏った軽やかなフリット　ブロッコリーのクーリとレモンのコンフィチュール
パン
デセール　　カカオウォーター　カカオガナッシュ　カカオシャーベット
カフェ　エスプレッソダブル
ミニャルディーズ

エヴィアン　945円/1本

別途サービス料10％

≪今回のワイン≫
NV CHAMPAGNE ROSE Veuve Clicquot　2100円/120mlグラス
2011 Pouilly Fume TRADITION Domaine SERGE DAGUENEAU & FILLES　1575円/120mlグラス
2007 CHAMBOLLE-MUSIGNY 1er Cru Les Fuees DOMAINE ANNE ET HERVE SIGAUT　2100円/120mlグラス

別途サービス料10％