Maido マイド

ニースに暮らしてさほどの不便や不満をもらすことなく暮らしているわたしだが、たまに思い出してはなつかしむ場所がある。ひとつは温泉。もうひとつは居酒屋。
のん兵衛のわたしにとって、次から次に安い料理を注文してお酒を飲む場所はやはり居酒屋以外にはない。

ニース在住歴の長い、そしてニース情報に詳しい友人から、居酒屋ができたよ、と聞いて、これはもう、一度食べに行かずにはいられるか、と思っていた。そしてこころのどこかではどこか冷めている自分もいた。
まあ、居酒屋つったって、ねえ？結局は高いんでしょ？

その冷めた気持ちは運よく裏切られた。なんと、一品一品のその安いこと。
わたしが家族と行ったのは土曜日の夜で、開店同時に着いたつもりなのに、すでにふたりの女性客が、大きなグラスワインを片手においしそうなお皿をつつきあっていた。

そしてわたしたちがメニューの看板をのぞきこんでいるとき、オーナーシェフで大阪出身のカナさんがやってきて耳元でささやいた。「サバの棒寿司が一人前だけあるんです。どうせなら日本人の方に食べていただきたいと思ってメニューには載せなかったんですが」。
無類のサバ好きのわたし。ちゅうちょすることなく、ふたつ返事でいただくことに。

これがもう！サバのしめ具合といい、酢飯のふんわり具合といい、絶品中の絶品。
気になるお値段、あのささやき具合からして相当な値段かも？とおびえていたのだが、お会計時に確認するとほかのお皿と同等、8ユーロ。や、安いっ。

ソムリエ資格を持つカナさん、ワインはすべてビオ（有機栽培）仕様。
もちろんワインだけではなく、おいしいお酒や焼酎、日本のビールも揃っている。
サービスを担当するのは日本滞在の経験もあるカナさんのご主人。
ゆっくりとした物腰でやさしい雰囲気を持つ彼のサービスはこちらの気持ちものんびりとさせてくれる。

そして特筆すべきことはこの居酒屋が、わたしたち日本人だけではなく、フランス人たちをも夢中にさせていること。常連の中には近所のテアトルで働くアーティストも多く、店内はおしゃれな雰囲気に包まれている。