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エリア:
- アジア > ネパール > カトマンズ
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テーマ:
- 世界遺産
【エベレスト】
『シャチョウサン、シャチョウサン』
おかしなアクセントで、おそらく東南アジアでは共通語になっているであろう日本人観光客への呼称をささやきながら、青年が擦り寄ってくる。
ほこりっぽいカトマンズの町を、群れて歩く12名の中年グループの中から、どういう基準で選ぶのか私と2歳年上のTは頻繁に声をかけられる。
青年は大事そうに抱えたショルダーバッグを開け、新聞紙で幾重にも包まれた品物を、あたりを憚るようにこっそり見せながら『我が家の家宝だが訳あって売りたい。2万円で買ってくれないか?』
見れば材質はよくわからないが、手の込んだ竜の彫刻を周囲に施した、丼ぐらいの大きさの真っ黒い鉢である。
『何で出来てるの』(私)
『水牛の骨です』 と青年が答える。
『水牛の骨や言うとるで』(T)
『水牛は体も真っ黒やけど、骨まで黒いんか』(私)
嗚呼。こうなると旅行ボケだけかどうか疑わしい。 『骨は白いだろお!』
何となく良さそうに思えるが2万円は高い。貨幣価値は感覚的に20〜30倍。日本でなら40〜50万円の値打ち物、我々二人は「いくらなんでも高いよ」
「18,000円」、「16,000円」と値を下げながら、
片言の日本語と英語でカニのように横歩きしながらついて来る。
「14,000」、「12,000」、「10,000」 (もう少し下がれば買おうかな・・)
鍛えぬかれた蟹歩きで我々の前に回りこみ、何とか売り込もうとする。
彼が商いをはじめて10分近く過ぎた頃、露店の並ぶ境内のような広場に出た。市場だ。様々な品物が所狭しと積み上げられている。
ふと目をやると、くだんの彼の【家宝の鉢】が無造作に50個ほど重ねてある。思わず店主の老女に『これいくら?』
『800円だよ』出だしがこれなら売値は半値の4〜500円か。『ナニ〜』
我々二人は同時に振り向いたが、この時ばかりは真っ直ぐ走り去ったのか、青年の姿はカトマンズの街の埃と喧騒の中に消えていた。
(Contributed by Kozo Kawasaki)
『シャチョウサン、シャチョウサン』
おかしなアクセントで、おそらく東南アジアでは共通語になっているであろう日本人観光客への呼称をささやきながら、青年が擦り寄ってくる。
ほこりっぽいカトマンズの町を、群れて歩く12名の中年グループの中から、どういう基準で選ぶのか私と2歳年上のTは頻繁に声をかけられる。
青年は大事そうに抱えたショルダーバッグを開け、新聞紙で幾重にも包まれた品物を、あたりを憚るようにこっそり見せながら『我が家の家宝だが訳あって売りたい。2万円で買ってくれないか?』
見れば材質はよくわからないが、手の込んだ竜の彫刻を周囲に施した、丼ぐらいの大きさの真っ黒い鉢である。
『何で出来てるの』(私)
『水牛の骨です』 と青年が答える。
『水牛の骨や言うとるで』(T)
『水牛は体も真っ黒やけど、骨まで黒いんか』(私)
嗚呼。こうなると旅行ボケだけかどうか疑わしい。 『骨は白いだろお!』
何となく良さそうに思えるが2万円は高い。貨幣価値は感覚的に20〜30倍。日本でなら40〜50万円の値打ち物、我々二人は「いくらなんでも高いよ」
「18,000円」、「16,000円」と値を下げながら、
片言の日本語と英語でカニのように横歩きしながらついて来る。
「14,000」、「12,000」、「10,000」 (もう少し下がれば買おうかな・・)
鍛えぬかれた蟹歩きで我々の前に回りこみ、何とか売り込もうとする。
彼が商いをはじめて10分近く過ぎた頃、露店の並ぶ境内のような広場に出た。市場だ。様々な品物が所狭しと積み上げられている。
ふと目をやると、くだんの彼の【家宝の鉢】が無造作に50個ほど重ねてある。思わず店主の老女に『これいくら?』
『800円だよ』出だしがこれなら売値は半値の4〜500円か。『ナニ〜』
我々二人は同時に振り向いたが、この時ばかりは真っ直ぐ走り去ったのか、青年の姿はカトマンズの街の埃と喧騒の中に消えていた。
(Contributed by Kozo Kawasaki)