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エリア:
- アジア > インド > デリー/ニューデリー
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テーマ:
- 街中・建物・景色
- / 鉄道・乗り物
2011/10/01
正直デリーは好きではない。
できることならホテルから出ないで、翌日すぐに移動したい。が、今回はインドが初めての友人が数人いるので、彼女たちのために少しだけデリーで時間をとった。パハールガンジのメインバザールを歩いてもらえば、まずはインドの雰囲気を味わってもらえることだろうから。
デリーにインした翌日、友人たちを迎えにインディラ・ガーンディ国際空港へ再び行った。友人たちは時間差でデリーに着くので、まずは最初の一人を迎える。
が、私は少々遅れてしまった。すでに友人は到着ロビーを出たロータリーの約束の場所にぽつんと立っていた。不安にさせてごめん、と謝ると、
「大丈夫。親切な人がさっきまで一緒にいてくれたから」
日本人?
「そう。機内で隣の席だったの。ごはんのときに私がCAの英語を聞き取れなくてまごまごしてたら、助けてくれて。その人、インドに会社があるらしくて」
その日本人男性は自分の連れのトランジットを手伝いに行き、間もなく戻ってくるのだという。
「迎えがいなかったから、その人すごく心配してくれてね。もし、友達と会えなかったら、僕の知ってるホテルに連れていってあげるって言ってた」
それはそれはずいぶんとご親切に。でも、私が遅れたので、そう言われてしまってもしかたがない。インドが初めてで英語も話せない日本人の女の子を放っておけない、と思う気持ちはよくわかる。
しかも友人はかわいいのだ。
そこまで心配してくれたのなら、このまま無視していくのは憚られる。とりあえず挨拶ぐらいはしていこうか。
しばらくしてその日本人男性がやって来た。
35〜40歳の間というところか。中肉中背のごく普通の日本人だ。
ご迷惑おかけしてすみません、と挨拶すると、彼は快活に笑い、
「いやぁ、まぁよかった。彼女、泊まるホテルの名前もわからなかったみたいで。初めてのインドでそれじゃかわいそうだから。あ、僕、Y田です」
はぁ、すみません。
「インドはねー、いろいろ危ないところだから女の子はね特に。僕はもうインド長いから、助けてあげられるところは助けてあげようと」
……はぁ。いろいろどうも。
じゃ、私たちはこれで、とそう言おうとした瞬間に、
「ホテルまで送りますよ。僕のドライバーが迎えに来てるんで」
見ると、彼の後ろにじっと立っているインド人がいる。彼がそのインド人に何事かいうと、インド人は慇懃に頷いた。
いえ、いいですよ、これ以上ご迷惑かけるのも……。
「いやいや大丈夫。ホテルはどこ?」
パハールガンジの方ですけど。
「あ、そう。僕はコンノートプレイスにあるホテルなんだけど、パハールガンジならそこから近いし。送っていきますよ」
私は咄嗟に計算した。
友人は大きなスーツケースを持っている。
予定では空港からエアポートエクスプレスでニューデリー駅まで行き、そこからホテルまで歩くつもりでいた。駅からホテルまでは距離的には遠くはないが、エアポートエクスプレスのニューデリー駅を降りてから、長距離列車のターミナルを越えていかねばならない。ターミナルは階段しかないので、大きな荷物を持っていると大変なのだ。
ならば、これは利用させてもらった方がいいかもしれない。
男は私の友人から目を離さない。それから私に向かって、
「ホテルの名前は?」
「コテージ・イエス・プリーズってホテルなんですけど」
「イエス・プリーズ?」
彼は怪訝な顔をして首をひねる。
「聞いたことないな。パハールガンジの? イエス・プリーズねぇ」
しばらく考えてから、私を見ると、
「わからないな。そのホテル、本当に大丈夫? インドは危ないホテルも多いからね」と、友人に目をやる。
「いえ、心配ないです。以前にも泊まっているので」
男はあれ? という顔をし、
「あなたはインド初めてじゃないの」
「もう何度か来ています」
「あぁ、そうなんだ。じゃあ彼女もあなたがいれば大丈夫だね」
はぁ、まぁ。
彼はそこでくるりとインド人運転手に向き直ると、早口の英語で「イエス・プリーズというホテルの場所を確認してくれ」
その頃になって私は面倒になってきた。
場所がわからないのでは時間がかかるだろう。しかもすでに午後7時近い。ちょうどデリーは渋滞の時間で、空港からパハールガンジまで1時間はかかるだろう。エアポートエクスプレスなら20分で着く。
友人の表情にも疲れがみえる。私はY田に、
「あのー、もし場所がわからなければ、けっこうですよ。エクスプレスでもすぐですし」
「いや、大丈夫。今、確認とってるから」
「えーっと、クルマ渋滞してると思いますし、Y田さんもお疲れでしょう。だから送っていただかなくても……」
「心配しないで。じゃ、とりあえずクルマまで行きましょうか」
彼はくるりと向きを変えると、ドライバーと共にパーキングへ向かって歩き出した。手にはケータイを持ち、しきりに「イエス・プリーズ」「イエス・プリーズ」と大声で話している。
友人が私に耳打ちしてきた。
「なんだかかえってごめんね。私、クルマじゃなくていいよ、なんかめんどくさい」
「私もクルマよりAPの方が早くホテルに着くとは思うんだけど。でも今さら悪くない? 私より、あなたが気を使うんじゃない?」
友人は首を振り、
「いいよ、別に。もう二度と会わないし。それに全然興味ない」
私たちは顔を見合わせた。
パーキングは空港内の、AP乗り場へ行く途中で分岐する先にある。
Y田たちは迷いもなくパーキング方面の動く歩道に乗り、ずっと先にいた。
「このまままっすぐ行くと、もうAP乗り場なんだけど」私が言うと、友人は、
「いいよ、電車で行こうよ、私、Y田さんに断ってくる」
彼女はY田を追って走り出した。私も後を追う。
そしてパーキングに入り、ほら、あれが僕のクルマ、と振り向いたY田に向かって、
「ごめんなさい、やっぱり送ってもらわなくてけっこうです。ありがとうございました!」友人はぺこりと頭を下げ、彼に背を向けた。
私たちも愛想笑いを贈って、きびすを返す。
えーーーーー!!! 背後から追ってくるY田の声。
「それならそうともっと早く言ってくれよ。せっかくホテルの場所もわかったのに。ねぇーーー!!!」
友人はもう一度振り返ると、
「本当にありがとうございましたぁ。お元気でー」
ちょっとぉおお〜〜〜いぃぃ……Y田の声が遠くなっていった。
いい人だった……と思う。
しかし、どうも上から目線なおせっかい、という印象しか残らない。
まるで「最近の若いモンはなにも知らん」が口癖のじいさんのようだった。
まぁ確かにこちらもコズルイことを考えたので申し訳なかったけど。
でもあの強引な感じは、途中からインド人かと思わされた。
コンノートプレイスあたりに泊まるような人にとっては、パハールガンジもメインバザールもインドの貧困や悪の巣窟というイメージだろうけど、いいところも楽しいところもあるんだよー。
あなただけがインドを知っているわけじゃないんですよーー。
どうもインドが長い日本人は親切がインド人化している気がする。
すなわち、親切とおせっかいのボーダーがわからなくなっているってことか。それと空気を読めなくなりつつあるというか……。
正直デリーは好きではない。
できることならホテルから出ないで、翌日すぐに移動したい。が、今回はインドが初めての友人が数人いるので、彼女たちのために少しだけデリーで時間をとった。パハールガンジのメインバザールを歩いてもらえば、まずはインドの雰囲気を味わってもらえることだろうから。
デリーにインした翌日、友人たちを迎えにインディラ・ガーンディ国際空港へ再び行った。友人たちは時間差でデリーに着くので、まずは最初の一人を迎える。
が、私は少々遅れてしまった。すでに友人は到着ロビーを出たロータリーの約束の場所にぽつんと立っていた。不安にさせてごめん、と謝ると、
「大丈夫。親切な人がさっきまで一緒にいてくれたから」
日本人?
「そう。機内で隣の席だったの。ごはんのときに私がCAの英語を聞き取れなくてまごまごしてたら、助けてくれて。その人、インドに会社があるらしくて」
その日本人男性は自分の連れのトランジットを手伝いに行き、間もなく戻ってくるのだという。
「迎えがいなかったから、その人すごく心配してくれてね。もし、友達と会えなかったら、僕の知ってるホテルに連れていってあげるって言ってた」
それはそれはずいぶんとご親切に。でも、私が遅れたので、そう言われてしまってもしかたがない。インドが初めてで英語も話せない日本人の女の子を放っておけない、と思う気持ちはよくわかる。
しかも友人はかわいいのだ。
そこまで心配してくれたのなら、このまま無視していくのは憚られる。とりあえず挨拶ぐらいはしていこうか。
しばらくしてその日本人男性がやって来た。
35〜40歳の間というところか。中肉中背のごく普通の日本人だ。
ご迷惑おかけしてすみません、と挨拶すると、彼は快活に笑い、
「いやぁ、まぁよかった。彼女、泊まるホテルの名前もわからなかったみたいで。初めてのインドでそれじゃかわいそうだから。あ、僕、Y田です」
はぁ、すみません。
「インドはねー、いろいろ危ないところだから女の子はね特に。僕はもうインド長いから、助けてあげられるところは助けてあげようと」
……はぁ。いろいろどうも。
じゃ、私たちはこれで、とそう言おうとした瞬間に、
「ホテルまで送りますよ。僕のドライバーが迎えに来てるんで」
見ると、彼の後ろにじっと立っているインド人がいる。彼がそのインド人に何事かいうと、インド人は慇懃に頷いた。
いえ、いいですよ、これ以上ご迷惑かけるのも……。
「いやいや大丈夫。ホテルはどこ?」
パハールガンジの方ですけど。
「あ、そう。僕はコンノートプレイスにあるホテルなんだけど、パハールガンジならそこから近いし。送っていきますよ」
私は咄嗟に計算した。
友人は大きなスーツケースを持っている。
予定では空港からエアポートエクスプレスでニューデリー駅まで行き、そこからホテルまで歩くつもりでいた。駅からホテルまでは距離的には遠くはないが、エアポートエクスプレスのニューデリー駅を降りてから、長距離列車のターミナルを越えていかねばならない。ターミナルは階段しかないので、大きな荷物を持っていると大変なのだ。
ならば、これは利用させてもらった方がいいかもしれない。
男は私の友人から目を離さない。それから私に向かって、
「ホテルの名前は?」
「コテージ・イエス・プリーズってホテルなんですけど」
「イエス・プリーズ?」
彼は怪訝な顔をして首をひねる。
「聞いたことないな。パハールガンジの? イエス・プリーズねぇ」
しばらく考えてから、私を見ると、
「わからないな。そのホテル、本当に大丈夫? インドは危ないホテルも多いからね」と、友人に目をやる。
「いえ、心配ないです。以前にも泊まっているので」
男はあれ? という顔をし、
「あなたはインド初めてじゃないの」
「もう何度か来ています」
「あぁ、そうなんだ。じゃあ彼女もあなたがいれば大丈夫だね」
はぁ、まぁ。
彼はそこでくるりとインド人運転手に向き直ると、早口の英語で「イエス・プリーズというホテルの場所を確認してくれ」
その頃になって私は面倒になってきた。
場所がわからないのでは時間がかかるだろう。しかもすでに午後7時近い。ちょうどデリーは渋滞の時間で、空港からパハールガンジまで1時間はかかるだろう。エアポートエクスプレスなら20分で着く。
友人の表情にも疲れがみえる。私はY田に、
「あのー、もし場所がわからなければ、けっこうですよ。エクスプレスでもすぐですし」
「いや、大丈夫。今、確認とってるから」
「えーっと、クルマ渋滞してると思いますし、Y田さんもお疲れでしょう。だから送っていただかなくても……」
「心配しないで。じゃ、とりあえずクルマまで行きましょうか」
彼はくるりと向きを変えると、ドライバーと共にパーキングへ向かって歩き出した。手にはケータイを持ち、しきりに「イエス・プリーズ」「イエス・プリーズ」と大声で話している。
友人が私に耳打ちしてきた。
「なんだかかえってごめんね。私、クルマじゃなくていいよ、なんかめんどくさい」
「私もクルマよりAPの方が早くホテルに着くとは思うんだけど。でも今さら悪くない? 私より、あなたが気を使うんじゃない?」
友人は首を振り、
「いいよ、別に。もう二度と会わないし。それに全然興味ない」
私たちは顔を見合わせた。
パーキングは空港内の、AP乗り場へ行く途中で分岐する先にある。
Y田たちは迷いもなくパーキング方面の動く歩道に乗り、ずっと先にいた。
「このまままっすぐ行くと、もうAP乗り場なんだけど」私が言うと、友人は、
「いいよ、電車で行こうよ、私、Y田さんに断ってくる」
彼女はY田を追って走り出した。私も後を追う。
そしてパーキングに入り、ほら、あれが僕のクルマ、と振り向いたY田に向かって、
「ごめんなさい、やっぱり送ってもらわなくてけっこうです。ありがとうございました!」友人はぺこりと頭を下げ、彼に背を向けた。
私たちも愛想笑いを贈って、きびすを返す。
えーーーーー!!! 背後から追ってくるY田の声。
「それならそうともっと早く言ってくれよ。せっかくホテルの場所もわかったのに。ねぇーーー!!!」
友人はもう一度振り返ると、
「本当にありがとうございましたぁ。お元気でー」
ちょっとぉおお〜〜〜いぃぃ……Y田の声が遠くなっていった。
いい人だった……と思う。
しかし、どうも上から目線なおせっかい、という印象しか残らない。
まるで「最近の若いモンはなにも知らん」が口癖のじいさんのようだった。
まぁ確かにこちらもコズルイことを考えたので申し訳なかったけど。
でもあの強引な感じは、途中からインド人かと思わされた。
コンノートプレイスあたりに泊まるような人にとっては、パハールガンジもメインバザールもインドの貧困や悪の巣窟というイメージだろうけど、いいところも楽しいところもあるんだよー。
あなただけがインドを知っているわけじゃないんですよーー。
どうもインドが長い日本人は親切がインド人化している気がする。
すなわち、親切とおせっかいのボーダーがわからなくなっているってことか。それと空気を読めなくなりつつあるというか……。