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エリア:
- アフリカ > モーリタニア > モーリタニアその他の都市
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テーマ:
- その他
「ミッション・インポッシブル!!」
(今日の日記にはお題を付けさせて頂きます。)
昨日、アメリカからやってきた旅人、ミートから持ちかけられた作戦は、
「歩いて国境を渡る。」
外国人が乗合タクシーでモーリタニアからモロッコへ入れない理由は、
「外国人はモーリタニア人と一緒に国境を渡る事は許されない。」
そして、外国人の車でならそれが許される理由は、
「モーリタニア人、モロッコ人以外の、外国人同士だけなら何の問題もない。」
・・・と言うのが、ヌアディブのモロッコ領事館で、我々もミートも聞いたモロッコ側の見解だ。
これを拡大解釈すると、
「例え車でなくても、歩いてでも外国人同士だけなら国境通過は許される。」
と言う事になる。
そこで、
「国境直前までタクシーなどで行って、そこから歩いて国境を渡り、モロッコへ入国する。」
と言うのが、ミートのアイデアだ。
だが実際はそう簡単には行かないのだ。
昨晩、ミートと我々3人に、「私の車で乗せてってやるよ。」と言うキャンプサイトの主人、それに車で国境を通過して来たと言うフランス人ツーリストを交えて、国境の様子の情報収集及び国境越えの作戦を皆でたてる。
モーリタニア、モロッコ両国の国境には緩衝地帯があり、モーリタニア側の国境最終ミリタリーポストからモロッコ側の国境ポストまで約10km。
ただし、特別に許可された乗合車以外の、地元の一般の車は、モーリタニア国境を越える事は許されず、小高い丘の上のミリタリーポストの監視の双眼鏡に見つからないようポストの3km手前までしか行けないと言う。
我々はまずキャンプサイトの車に乗り、モーリタニア側の国境ポストの3km手前で降り、モロッコ側の国境ポストまで約13kmを歩いて渡る。
我々が重い荷物を背負って歩こうとしている国境緩衝地帯は、しゃく熱の西サハラの砂漠のど真ん中。しかもかつての紛争の名残で地雷があちこちに埋まっていると言う。
道はあるにはあるがボロボロ、道の上を歩いている分には地雷の心配はないが、道を外れると危険との事。
難関はまだある。
我々が今いるヌアディブの街からモーリタニア側の国境ポスト迄約40km、その間、ポリスチェックポイントが2ヶ所ある。
我々日本人2人とミートの「外国人ツーリスト3人は、国境付近で車がガス欠になり車を停めてあるので、そこ迄送って行く。」
という理由をでっち上げ、ポリスチェックをかいくぐると言うのは、キャンプサイトのご主人のアイデア。
国境通過が許されない一般の車両が、国境方面へ向かうと言うのだから、ポリスチェックをかいくぐるにはそれなりの理由が必要なのだ。
何とか無事、モロッコ入国を果たすと、国境後、最初にある街はビルガンドゥーズ。
国境を通過し、モロッコへ入国してしまえば、後はどんな車に誰と一緒に乗ろうが自由な筈なので、そこで、その約450km先のダクラまで車をヒッチハイクする。ダクラ迄行けば、モロッコ北部の主要都市までバスが出ている。
広大な砂漠の上を、ポリスチェックをかいくぐり、ミリタリーポストの監視の目から逃れ、地雷を避けて、働きアリの様に大きな荷物を背負ってせっせと歩いて国境を越える。
名付けて「砂漠のアリ作戦」。
不可能ではないだろう。だが無謀にも見える。大丈夫だろうか。
やる気まんまんのアメリカ軍ミートとそそのかされた日本からやって来た我々2人、さぁ、作戦開始だ!!

『砂漠のアリ作戦』 ミッションチャート
<ミッション1>ヌアディブ→モーリタニア側国境最終ミリタリーポスト(約40km)
1-1) 2ヶ所のポリスチェックをかいくぐる。
-2) 最終ミリタリーポストの監視に見つからない様ポスト3km手前で降車し歩く。
<ミッション2>国境・モーリタニア側ミリタリーポスト→モロッコ側ポスト(約10km)
2-1) モーリタニア側ミリタリーポストを通り、モーリタニアを「出国」する。
-2) モロッコ側ポスト迄約10kmを歩く。地雷が埋まっているので道を外れてはいけない。
<ミッション3>モロッコ側ポスト/ビルガンドゥーズ→ダクラ(約450km)
3-1) ヒッチハイク。
※よい子は決してマネをしないで下さい。(よい子=最良な旅行者)
我々2人とミートの3人が乗った古びれたランドローバーは、昼、丁度12時頃、ヌアディブのキャンプサイトを出発。
車はキャンプサイトの従業員の男が運転、そして車にはもう一人、これから向かう国境までの道は砂漠の中の所々道なき道、ガイドが必要なのだ。
国境緩衝地帯を10km以上歩かなくてはならない我々は、何が何でも明かるい内に歩き切って国境っを渡ってしまいたいので、朝一番にでも出発したかったのだが、このガイドがなかなか現れず、出発が昼までずれ込んでしまったのだ。
ヌアディブの街を出てすぐ幹線道路をそれ、ガイドのナビゲーションに従って車は砂漠の道なき道を走る。
そしてまず、1ヶ所めのポリスチェック。
「モロッコへ行くのか?」
と、ポリス。
「Yes。国境手前までこの車で行って、あとは歩いて国境を越えモロッコへ行く。」
とミートが返答する。
「『国境付近でガス欠の車が停めたままになっている』なんてウソはすぐバレる。正直に言ってちゃんと出国しておいた方がいい。」
と言うのが、後から聞いたミートの考えだ。
「パスポート」
と言うポリスの指示に従って、我々3人はパスポートを提出。
すると、ミートのパスポートにはさんであった外貨申告書を見て、ポリスは我々2人に
「お前達の外貨申告書はどこだ?」
「そんな物持っていない。モーリタニア入国の際、何も言われなかった。」
と返す。
「いいかイチロー。外貨申告書なんてそんなシリアスな問題じゃないんだ。これは単なるゲームだ。やつらはバクシーシ(ワイロのお金)が欲しいだけなんだ。」
とミートが耳もとでささやく。
ポリスはまず4000ウギアのバクシーシを要求して来る。すると、
「こんな面倒臭い事はもう沢山だ。ここで折り返して今すぐ又ヌアディブに戻ろう。」
とドライバーが叫ぶ。
このドライバーの振るまいも、多分演技。我々は事前に「車代はバクシーシ込」の約束をしてあったので、最終的にドライバーがいくらポリスに支払ったのかわからなかったが、この演技でバクシーシは多少「割引」されたと思われる。
モーリタニアの出国スタンプが押されたパスポートが返され、まず一番目のポリスチェックを通過。
そのパスポートの出国スタンプが押されたページを見せ、二番目のポリスチェックは難無く通過。
ミートの考え通り、一番目のポリスチェックで正直にモロッコへ行く事を伝え、出国スタンプを貰っておいて正解だった様だ。
さすがはアメリカ人ミート51才。ニューヨークユ・ニバーシティのコミュニケーション学のプロフェッサーだそうだ。文句なしのこのミッションのリーダーだ。
ただ、なんとか笑顔で善良な旅行者を強調して各関門を乗り切ろうとする我々日本人2人に対して、ミートはあくまで強気なのが少し気になる。
2つのポリスチェックを抜けると、車はしばらく砂漠の道なき道を進む。
窓の外には、砂漠の向こうにコバルトブルーの海が広がる。
人の手が全く入っていない純真無垢な砂の大地が造り出す造形美と大海原、静まり返ったその美しいランドスケープに息を呑む。
正に、困難なミッションの途中の、一瞬のつかの間の清涼水だ。

「あれが昔スペインが作ったモロッコへ続く道路だよ。」
とドライバーとガイド。
見ると、それは道路と言うよりガレキが並んでいるだけ。しかもほとんど砂に埋もれ、目を凝らさないと、石ころなのか道路のこん跡なのか見分けるのが困難な程だ。
車は砂にタイヤをとられないよう、砂の浅い所を選んで進まなければならない。バカ正直にこの「スペインの道」を進もうとすると、そこをおおうぶ厚い砂の中に突っ込んでしまうので「スペインの道」はあくまで道しるべ。引き続きガイドのナビゲーションに従って、砂漠の中の道なき道を進む。
ところが、
「ウォーン、ウォーン、ウォン・・・。」
ドライバーがいくらアクセルを踏み込んでもタイヤはカラ回り。
どうやらガイドは道を誤ってしまったらしい。車は砂漠の砂にスタック。
ガイドもミートも自分もJunkoも車を降り、タイヤのまわりの砂を掘り、全員で渾身の力をこめて車を押す。
しゃく熱の太陽が容赦なく照りつける砂漠の真中で、これを数え切れない程くり返す。
汗がしたたる。砂じんで目が痛い。
1〜2時間してようやく車は砂地獄を脱出。
危うく「砂漠のアリ」は、ミッション半ばで「アリ地獄」に喰われる所だった。
「ヘーイッ!!」
ドライバーは声を上げて喜んでいる。
「何がヘーイだ、今はいいが、我々のミッションはまだ先があるんだ。」
と自分とミート。
この砂との戦いですっかり時間を食われ、時刻はもう夕方になろうとしている。
「だから、もっと早く出発しておけば・・・。」
やがて車は、こんもりと砂が盛り上がった小さい砂丘の陰に停車。
「いいか、そこを曲がってあっちの方へ行け。」
と、ドライバーとガイド。
どうやら我々は、モーリタニア側の国境最終ミリタリーポストの手前まで来たらしい。
我々3人は車を降り、砂の上にバックパックを降ろし、ヌアディブへ戻って行く車を見送る。
ついにサハラ砂漠の真中に3人だけになってしまった。もう行くしかない。
覚悟を決め、バックパックを背負う。

時刻は既に夕方過ぎ、
「今日、地雷も埋まる砂漠を10km以上も歩くのは無理だな。モーリタニアのミリタリーポストでお願いして何とか今晩は泊めさせてもらおう。」
歩き始めて間もなく、小高い丘の上に小屋を発見。そこへ向かって歩いていると、そこから監視していたソルジャーが我々の方へ歩いて近付いてくる。
ミートが事情を説明すると、そのソルジャー先導でミリタリーポストへ案内される。緊張が体を走る。
石を積んだ小さな小屋の中へ入ると、
「ハロー、どうしたんだい。・・・そりゃあ大変だったな。まあ座って。」
と、小屋の中にいた4人のソルジャーは、皆柔らかい笑顔。
「お腹も空いただろう。」
と、お茶に、パンやクッキーやピーナッツの茶菓子迄つけて、もてなしてくれる。
厳しい尋問などがあるのではないかと恐れていただけに、この展開はあまりにも意外。
夜は調味料で味付けしただけのマカロニと、質素ながらも晩ご飯までごちそうになる。
砂漠の夜は寒い。強い寒風が吹き付け、ヒューヒューとうなりを上げている。
ここのミリタリーポストに電気はない。お茶や料理は携帯のガスコンロで作っている。
日が落ち、砂漠の地平線がオレンジ色に染まる頃、寝袋を持ちあわせていないミートはミリタリーポストの石造りの小屋に、自分とJunkoの2人は離れの鉄道のレールをたてかけて作ったすき間風が吹きつける粗末な監視小屋に寝袋を敷いて眠りに就く。
車もなんとか砂地獄を抜けられた。そして国境ミリタリーポストのモーリタニアのソルジャー達に意外にも親切にしてもらって、とりあえず今夜の所はひと安心。
だが、当初の計画では、今日中に国境を越えモロッコ入国を果たす予定だったのだが、、、。
ミッションは明日も続く。
【食事】
朝:バゲット、オレンジ
昼:なし
夜:マカロニ
【トラベルメモ】
1US$ ≒ 250UG(モーリタニア・ウギア)
・ヌアディブ→モーリタニア国境ミリタリーポスト手前
(宿泊していたCamping Baieで車を手配)3000UG/1台バクシーシ込 12時発 17時着
【宿】
(国境のモーリタニアのミリタリーポスト手前)無料
(今日の日記にはお題を付けさせて頂きます。)
昨日、アメリカからやってきた旅人、ミートから持ちかけられた作戦は、
「歩いて国境を渡る。」
外国人が乗合タクシーでモーリタニアからモロッコへ入れない理由は、
「外国人はモーリタニア人と一緒に国境を渡る事は許されない。」
そして、外国人の車でならそれが許される理由は、
「モーリタニア人、モロッコ人以外の、外国人同士だけなら何の問題もない。」
・・・と言うのが、ヌアディブのモロッコ領事館で、我々もミートも聞いたモロッコ側の見解だ。
これを拡大解釈すると、
「例え車でなくても、歩いてでも外国人同士だけなら国境通過は許される。」
と言う事になる。
そこで、
「国境直前までタクシーなどで行って、そこから歩いて国境を渡り、モロッコへ入国する。」
と言うのが、ミートのアイデアだ。
だが実際はそう簡単には行かないのだ。
昨晩、ミートと我々3人に、「私の車で乗せてってやるよ。」と言うキャンプサイトの主人、それに車で国境を通過して来たと言うフランス人ツーリストを交えて、国境の様子の情報収集及び国境越えの作戦を皆でたてる。
モーリタニア、モロッコ両国の国境には緩衝地帯があり、モーリタニア側の国境最終ミリタリーポストからモロッコ側の国境ポストまで約10km。
ただし、特別に許可された乗合車以外の、地元の一般の車は、モーリタニア国境を越える事は許されず、小高い丘の上のミリタリーポストの監視の双眼鏡に見つからないようポストの3km手前までしか行けないと言う。
我々はまずキャンプサイトの車に乗り、モーリタニア側の国境ポストの3km手前で降り、モロッコ側の国境ポストまで約13kmを歩いて渡る。
我々が重い荷物を背負って歩こうとしている国境緩衝地帯は、しゃく熱の西サハラの砂漠のど真ん中。しかもかつての紛争の名残で地雷があちこちに埋まっていると言う。
道はあるにはあるがボロボロ、道の上を歩いている分には地雷の心配はないが、道を外れると危険との事。
難関はまだある。
我々が今いるヌアディブの街からモーリタニア側の国境ポスト迄約40km、その間、ポリスチェックポイントが2ヶ所ある。
我々日本人2人とミートの「外国人ツーリスト3人は、国境付近で車がガス欠になり車を停めてあるので、そこ迄送って行く。」
という理由をでっち上げ、ポリスチェックをかいくぐると言うのは、キャンプサイトのご主人のアイデア。
国境通過が許されない一般の車両が、国境方面へ向かうと言うのだから、ポリスチェックをかいくぐるにはそれなりの理由が必要なのだ。
何とか無事、モロッコ入国を果たすと、国境後、最初にある街はビルガンドゥーズ。
国境を通過し、モロッコへ入国してしまえば、後はどんな車に誰と一緒に乗ろうが自由な筈なので、そこで、その約450km先のダクラまで車をヒッチハイクする。ダクラ迄行けば、モロッコ北部の主要都市までバスが出ている。
広大な砂漠の上を、ポリスチェックをかいくぐり、ミリタリーポストの監視の目から逃れ、地雷を避けて、働きアリの様に大きな荷物を背負ってせっせと歩いて国境を越える。
名付けて「砂漠のアリ作戦」。
不可能ではないだろう。だが無謀にも見える。大丈夫だろうか。
やる気まんまんのアメリカ軍ミートとそそのかされた日本からやって来た我々2人、さぁ、作戦開始だ!!

『砂漠のアリ作戦』 ミッションチャート
<ミッション1>ヌアディブ→モーリタニア側国境最終ミリタリーポスト(約40km)
1-1) 2ヶ所のポリスチェックをかいくぐる。
-2) 最終ミリタリーポストの監視に見つからない様ポスト3km手前で降車し歩く。
<ミッション2>国境・モーリタニア側ミリタリーポスト→モロッコ側ポスト(約10km)
2-1) モーリタニア側ミリタリーポストを通り、モーリタニアを「出国」する。
-2) モロッコ側ポスト迄約10kmを歩く。地雷が埋まっているので道を外れてはいけない。
<ミッション3>モロッコ側ポスト/ビルガンドゥーズ→ダクラ(約450km)
3-1) ヒッチハイク。
※よい子は決してマネをしないで下さい。(よい子=最良な旅行者)
我々2人とミートの3人が乗った古びれたランドローバーは、昼、丁度12時頃、ヌアディブのキャンプサイトを出発。
車はキャンプサイトの従業員の男が運転、そして車にはもう一人、これから向かう国境までの道は砂漠の中の所々道なき道、ガイドが必要なのだ。
国境緩衝地帯を10km以上歩かなくてはならない我々は、何が何でも明かるい内に歩き切って国境っを渡ってしまいたいので、朝一番にでも出発したかったのだが、このガイドがなかなか現れず、出発が昼までずれ込んでしまったのだ。
ヌアディブの街を出てすぐ幹線道路をそれ、ガイドのナビゲーションに従って車は砂漠の道なき道を走る。
そしてまず、1ヶ所めのポリスチェック。
「モロッコへ行くのか?」
と、ポリス。
「Yes。国境手前までこの車で行って、あとは歩いて国境を越えモロッコへ行く。」
とミートが返答する。
「『国境付近でガス欠の車が停めたままになっている』なんてウソはすぐバレる。正直に言ってちゃんと出国しておいた方がいい。」
と言うのが、後から聞いたミートの考えだ。
「パスポート」
と言うポリスの指示に従って、我々3人はパスポートを提出。
すると、ミートのパスポートにはさんであった外貨申告書を見て、ポリスは我々2人に
「お前達の外貨申告書はどこだ?」
「そんな物持っていない。モーリタニア入国の際、何も言われなかった。」
と返す。
「いいかイチロー。外貨申告書なんてそんなシリアスな問題じゃないんだ。これは単なるゲームだ。やつらはバクシーシ(ワイロのお金)が欲しいだけなんだ。」
とミートが耳もとでささやく。
ポリスはまず4000ウギアのバクシーシを要求して来る。すると、
「こんな面倒臭い事はもう沢山だ。ここで折り返して今すぐ又ヌアディブに戻ろう。」
とドライバーが叫ぶ。
このドライバーの振るまいも、多分演技。我々は事前に「車代はバクシーシ込」の約束をしてあったので、最終的にドライバーがいくらポリスに支払ったのかわからなかったが、この演技でバクシーシは多少「割引」されたと思われる。
モーリタニアの出国スタンプが押されたパスポートが返され、まず一番目のポリスチェックを通過。
そのパスポートの出国スタンプが押されたページを見せ、二番目のポリスチェックは難無く通過。
ミートの考え通り、一番目のポリスチェックで正直にモロッコへ行く事を伝え、出国スタンプを貰っておいて正解だった様だ。
さすがはアメリカ人ミート51才。ニューヨークユ・ニバーシティのコミュニケーション学のプロフェッサーだそうだ。文句なしのこのミッションのリーダーだ。
ただ、なんとか笑顔で善良な旅行者を強調して各関門を乗り切ろうとする我々日本人2人に対して、ミートはあくまで強気なのが少し気になる。
2つのポリスチェックを抜けると、車はしばらく砂漠の道なき道を進む。
窓の外には、砂漠の向こうにコバルトブルーの海が広がる。
人の手が全く入っていない純真無垢な砂の大地が造り出す造形美と大海原、静まり返ったその美しいランドスケープに息を呑む。
正に、困難なミッションの途中の、一瞬のつかの間の清涼水だ。

「あれが昔スペインが作ったモロッコへ続く道路だよ。」
とドライバーとガイド。
見ると、それは道路と言うよりガレキが並んでいるだけ。しかもほとんど砂に埋もれ、目を凝らさないと、石ころなのか道路のこん跡なのか見分けるのが困難な程だ。
車は砂にタイヤをとられないよう、砂の浅い所を選んで進まなければならない。バカ正直にこの「スペインの道」を進もうとすると、そこをおおうぶ厚い砂の中に突っ込んでしまうので「スペインの道」はあくまで道しるべ。引き続きガイドのナビゲーションに従って、砂漠の中の道なき道を進む。
ところが、
「ウォーン、ウォーン、ウォン・・・。」
ドライバーがいくらアクセルを踏み込んでもタイヤはカラ回り。
どうやらガイドは道を誤ってしまったらしい。車は砂漠の砂にスタック。
ガイドもミートも自分もJunkoも車を降り、タイヤのまわりの砂を掘り、全員で渾身の力をこめて車を押す。
しゃく熱の太陽が容赦なく照りつける砂漠の真中で、これを数え切れない程くり返す。
汗がしたたる。砂じんで目が痛い。
1〜2時間してようやく車は砂地獄を脱出。
危うく「砂漠のアリ」は、ミッション半ばで「アリ地獄」に喰われる所だった。
「ヘーイッ!!」
ドライバーは声を上げて喜んでいる。
「何がヘーイだ、今はいいが、我々のミッションはまだ先があるんだ。」
と自分とミート。
この砂との戦いですっかり時間を食われ、時刻はもう夕方になろうとしている。
「だから、もっと早く出発しておけば・・・。」
やがて車は、こんもりと砂が盛り上がった小さい砂丘の陰に停車。
「いいか、そこを曲がってあっちの方へ行け。」
と、ドライバーとガイド。
どうやら我々は、モーリタニア側の国境最終ミリタリーポストの手前まで来たらしい。
我々3人は車を降り、砂の上にバックパックを降ろし、ヌアディブへ戻って行く車を見送る。
ついにサハラ砂漠の真中に3人だけになってしまった。もう行くしかない。
覚悟を決め、バックパックを背負う。

時刻は既に夕方過ぎ、
「今日、地雷も埋まる砂漠を10km以上も歩くのは無理だな。モーリタニアのミリタリーポストでお願いして何とか今晩は泊めさせてもらおう。」
歩き始めて間もなく、小高い丘の上に小屋を発見。そこへ向かって歩いていると、そこから監視していたソルジャーが我々の方へ歩いて近付いてくる。
ミートが事情を説明すると、そのソルジャー先導でミリタリーポストへ案内される。緊張が体を走る。
石を積んだ小さな小屋の中へ入ると、
「ハロー、どうしたんだい。・・・そりゃあ大変だったな。まあ座って。」
と、小屋の中にいた4人のソルジャーは、皆柔らかい笑顔。
「お腹も空いただろう。」
と、お茶に、パンやクッキーやピーナッツの茶菓子迄つけて、もてなしてくれる。
厳しい尋問などがあるのではないかと恐れていただけに、この展開はあまりにも意外。
夜は調味料で味付けしただけのマカロニと、質素ながらも晩ご飯までごちそうになる。
砂漠の夜は寒い。強い寒風が吹き付け、ヒューヒューとうなりを上げている。
ここのミリタリーポストに電気はない。お茶や料理は携帯のガスコンロで作っている。
日が落ち、砂漠の地平線がオレンジ色に染まる頃、寝袋を持ちあわせていないミートはミリタリーポストの石造りの小屋に、自分とJunkoの2人は離れの鉄道のレールをたてかけて作ったすき間風が吹きつける粗末な監視小屋に寝袋を敷いて眠りに就く。
車もなんとか砂地獄を抜けられた。そして国境ミリタリーポストのモーリタニアのソルジャー達に意外にも親切にしてもらって、とりあえず今夜の所はひと安心。
だが、当初の計画では、今日中に国境を越えモロッコ入国を果たす予定だったのだが、、、。
ミッションは明日も続く。
【食事】
朝:バゲット、オレンジ
昼:なし
夜:マカロニ
【トラベルメモ】
1US$ ≒ 250UG(モーリタニア・ウギア)
・ヌアディブ→モーリタニア国境ミリタリーポスト手前
(宿泊していたCamping Baieで車を手配)3000UG/1台バクシーシ込 12時発 17時着
【宿】
(国境のモーリタニアのミリタリーポスト手前)無料


